本当にあった親不知抜歯の怖い話⑧
人生で初めて【死】を意識したときには妻と母に本当に申し訳ない気持ちになった。
軽い気持ちで抜歯した親不知で死んでいく夫。
軽い気持ちで抜歯した親不知で死んでいく息子。
心の中で数えきれないほど謝った。
私が死んだら、これは医療ミスになるのかな?
そしたら裁判とか妻には迷惑かけてしまうだろうな。。。
そんな事も考えた。
しかし、朦朧とする意識の中で死と向き合い、考えれば考えるほど『このまま死んでたまるか』と言う気持ちが強くなってきていた。
妻に連絡しよう。
きっと心配しているに違いない。
そう思った私は横を向くと患者用の棚があった。
よく見ると妻が持って来てくれたであろう見覚えがある鞄や荷物が置いてある。
重力が倍になったと錯覚するほど重い身体を無理やり起こし、手で足を持ち上げながら必死になり横を向くとなんとか座る体制をになれた。
咽から繋がっている管やその管から体内の膿を出す為に取り付けられている箱みたいな物、もちろん術後から性器にはおしっこが自動的に出る様に管が差し込まれている。
私にとっては呪いの装備を身に纏いながら、最新の注意を払い何とか立つ事が出来たが、意識は朦朧とし前に足を踏み出すのも億劫だ。
棚を物色すると鍵付きの引出しを発見し、試しに開けてみると使い慣れた私の携帯電話があった。
画面は暗かったが、電源ボタンを長押しすると画面が明るくなりリンゴマークが映しだされのを見て、手術前に電源を切った自分をちょっと褒めた。
時間を見ると時刻は22時、どうりで辺りは暗い訳だ。
携帯に通知が来ているので、LINEを見ると妻から私にメッセージが来ていた。
一文字を打つのも辛かったので簡易的だが生存報告をした。
妻からも返事が来て少しは安心させる事が出来たので、ふと申請に必要だという事で棚にあったポーチから保険証を探して両面カメラで撮影して送った。
一先ずミッションを終えてほっとしていたが、また横になるのが怖くベッドの策に掴まりながらではあるが胡坐をかいた状態で暫くじっとしていると、みぞおち付近の痛みが多少マシになっていく事に気付く。
そして、無意識に胡坐をかいた状態でベリーダンスを踊るように腰をゆっくりと左右に揺れるような形で振ってみた。
このときの私は、なぜそうしたのか?思いついたのか?は今でも分からないが、今まで生きてきた中でMVPの瞬間を決めるとしたら、私は間違いなくこの瞬間身体を揺らす事をした当時の私をMVPにする。
それほどの分岐点で有り、無理にでも身体を起こして身体を揺らしていなければ、冗談抜きで死んでいたかもしれないと思う。
恐らく2時間くらいは揺れていたと思うが、この行動をきっかけに体調はみるみる好転していった。
みぞおちの痛みはどんどん引いていき、あまり気にならない程度まで落ち着く、暫く身体を起こし血が廻ったからか頭の中もスッキリとしてきた。
ココで少し看護師さんにわがままを言ってみた。
どうしても歩きたい衝動に駆られナースコールを押すと、看護師さんに『大きい方のトイレに行かせて下さい』と伝える。
困惑していたが、二人がかりで色々持ってもらったりしてトイレまで何とか歩く事が出来、しかも大きい方も多少致す事が出来て感動。
行ってみて初めて分かったが、病室の入口直ぐのドアはトイレだった事に少しビックリした。
※幻覚が見えていて、トイレのドアに付いている磨りガラスにキャラクターの顔が映し出されていて、なんの場所なのか全く分からなかったので。
ベッドに戻ってからも眠ってまた今までの地獄の状況に戻るのが怖くて、朝になるまで腰を揺らす事に集中していた。
揺れている間も子供達が何かの番組で撮影しに来ていたり、何かのキャラクターがアニメ番組見たいに流れている映像など、絶えず幻覚は見えていたが愚直に身体を揺らし続けていると段々と朝が近づき明るくなっていくのを感じた。
携帯を見ると時刻は6時。
生きていて良かったと初めて素直に感じた事をよく覚えている。
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